【「就職戦線異状なし」は公開25年後の今観ると更に楽しめる映画だ!】 [映画]
「就職戦線異状なし」は公開25年後の今観ると更に楽しめる映画だ!
25年前に封切られたこの映画を私は映画館で観ました。
当時も楽しく観ることができたのですが、久しぶりにこの映画を観て当時とはまた違った良さを存分に味わうことができましたのでご紹介したいと思います。
当時も楽しく観ることができたのですが、久しぶりにこの映画を観て当時とはまた違った良さを存分に味わうことができましたのでご紹介したいと思います。
この記事の目次
どんな映画かと言いますと…
まずはこの「就職戦線異状なし」がどんな映画か、簡単にご紹介したいと思います。封切りされた頃の時代背景
この映画は1991年バブル終焉期に公開されました。現在の就活生にはなじみのないような「バブル景気の頃の就職活動」が舞台です。
バブル景気は1991年の2月とか3月にはじけたと言われています。
ですから既にこの映画が公開された頃の就職活動は好景気で浮かれた日本があっという間にぶっ飛んだあとの状況です。
経済の縮小ムードの最前線として求人数の激減などを反映したものとなっていました。
しかしながらこの映画の中で描かれている就職活動はまさにバブルそのもの、現在の厳しい就職環境で闘っている若者からは想像できないような描写が続きます。
学生は浮かれたお遊びモード全開です。
社会人は「24時間戦えますか?」といったフレーズが流行語になった時代を凝縮したような、カッコよく言えば企業戦士、悪く言ったら社畜そのものです。
制作は元気いっぱいで「我が世の春」を謳歌していたフジテレビです。
企画段階はまさにバブル絶頂期で、公開時にバブルがはじけてしまった、そんなことなのかもしれません。
昭和の匂い、といってもノスタルジックというよりは、今となっては「浮かれていた一時期の日本」が垣間見える映画と言えます。
ストーリー
超売り手市場のバブル絶頂期ですら難関企業と言われるのがマスコミ。そのマスコミへの就職を狙う、早稲田大学4年生の「大原」を取り巻く物語。
この時代で就活の苦労する姿を描くとすればこのように限定的な業種で描く必要があるんですよね。
かつて「ふぞろいの林檎たち」という山田太一脚本の学生の生の姿を描いたドラマがありました。
そのセカンドシーズンでは就活と就職後の新人社会人の苦労を描いていましたが、彼らは無名の三流大学出身で就活に苦労する、という設定でした。
でも、この映画では通常の業界への就職なら「引く手あまた」の早稲田大生というのもバブルを際立たせた設定です。
マスコミ志望の理由も「いいクルマ・いい女・クリエイティブな仕事」、そんなチャラさで、そこに「熱血」とか「情熱」といった汗臭い言葉は出てきません。
映画の冒頭で早大のマスコミ研究会の後輩たちが難関マスコミに誰が就職内定を勝ち取るかの馬券販売を始めます。
大穴が主人公「大原」です。
そんなダメダメ就活生「大原」がある事件をきっかけに本来なら厳しい競争を勝ち残れないエフテレビの面接を勝ち残ります。
大原にはいつも一緒につるむ仲間がいますが、その中の作家志望の「まりこ」は何かとダメな大原の世話を焼きます。
密かに大原のことが好きな幼馴染といったところですが、大原は就活中に知り合った大人のOLと良い仲に…。
一浪している大原には高校野球を一緒にやってきた後輩の同級生・立川がいます。
マスコミ志望一本でコツコツ就活研究してきたこの子分の様な同級生を利用しながら就活を戦う大原の就活は、そして恋の行方は…。
そんな映画です。
こんなにもバブル臭ぷんぷんの映画もないものです。
就職ダービー 出走馬紹介
劇中では学生を紹介するにテロップにて「就職偏差値」が表示されます。今も活躍している俳優陣たちの好演
この映画に出演している俳優陣は今も活躍している方ばかりです。現在の彼らしか知らない若い方は新たな一面を観ることができますし、当時を知る年代の方は懐かしく観ることができると思います。
織田裕二 熱血刑事でも世界陸上応援団でもないだらけた就活生を好演
織田裕二と言えば、湾岸署の熱血刑事役や世界陸上の応援団として活躍する姿が思い浮かぶ方も多いかと思いますが、この映画の彼は後輩を便利に使い、就活に出遅れたダメダメな学生です。就職レースで大穴になるような学生を好演しています。
どんなことにも物怖じしない、ちょっと喧嘩っ早くて、女も好きで、でも意外に悪いことはできないような…。
この映画を観て、つくづく思いました。
織田裕二って見た目が全然っ、変わってない!
こんなに変わらないのも珍しい。
きっと鍛えてらっしゃるんでしょうねぇ。
坂上忍 子役からのベテランが演じるドラ息子
坂上忍は最近はバラエティで売れっ子になってテレビでもお馴染みの顔になりましたが、名子役として役者としてのキャリアのある彼が主役の脇を固めます。役どころは父親のコネで早々に花形の大手広告代理店に内定を決めたドラ息子大学生というポジション。
遊び人風で女を連れて豪遊でもしてそうです。
上のシーンは第一志望の内定を取ったにも関わらず、いい思いをしようと他の内定企業から接待を受けているシーンです。
お気楽に生きている感じがとってもハマってていい味出してます。
でも最後のシーンではちょっといい話になっていて、ソツなく演じていて役者としての余裕を感じさせます。
的場浩司 お笑い一手に引き受けます
私がこの映画が面白いと思ったのはこのハマリ役の彼の存在があったればこそです。この映画のお笑い要素は彼の好演に支えられていると言っても過言ではありません。
その後の『的場浩司』のポジションを知っている今だからこそ、より一層深みを感じて楽しめます。
その役どころは、主人公大原の高校時代の後輩です。大原は一浪して大学生になっているため大学では同級生で一緒につるむ仲間ではありますが、高校時代の間柄を引きずっていて大原の子分みたいにいいように使われています。
迷惑な先輩に引きずり回され、「僕に構わないで下さいよッ!」って感じですが、大原の一本気なところを密かに尊敬もしたりしている、真面目だけど報われない感じの大学生を好演しています。
とにかく彼のシーンを観るだけでもこの映画を観る価値があると思います。
そのくらい、いい味だしてます。
仙道敦子 久しぶりに見て思い出せなかった
主要配役人で唯一名前が出なかったのがこの人。見たことあるけど、誰だったっけなぁ…。
調べて、あぁー!って思ったのがこの人、仙道敦子。
敦子って書いてのぶこ。
私、当時は結構好きな女優さんでした。
調べてみたら、俳優の緒方直人と1993年に結婚して現在は女優業は休業中なんですね。
どうりで最近見ないと思いました。
役どころは作家志望の女子大生・鞠子。
服装などバブル期の女子大生にしては地味で堅実、美人と普通の境界線の微妙な感じは、ずぼら男、大原を密かに好きでいる世話焼き女子大生役にぴったりです。
羽田美智子 地味なのに派手な役のアンバランスさをお楽しみください
最近の彼女はどちらかというと落ち着いた印象を受けますが、この映画の中では坂上忍演じるチャラ男、北町を翻弄する彼女・麻子を演じています。バブルを謳歌する女子大生、といった感じで大原たちとつるんではいますが、地味な鞠子(仙道敦子)とは対照的です。
的場浩司と同様、演じているキャラと現在のポジションとの対比でお楽しみください。
和久井映見 大人の色気で学生をその気にさせるお姉さん役
この映画の中では誰もが憧れるお姉さんポジション、エフテレビ人事部のOL・葉子を演じています。確かにお化粧や服装はそんな感じですが、しっとりして芯の強い女性を演じている彼女の方が印象が強いので、この配役も今となっては対照的な感じですんなり入ってこないところが映画に新鮮味を与えていると言って良いでしょう。
人事部で学生の履歴書をめくりながら、
「ショック。今年のセミナー合格組、ロクなのがいないわ。」
なんて、ため息をついています。
そんな、男漁りを始めたような肉食系女子が目を付けたのが、型にはまらない、大穴の大原というわけです。
大原も大人の葉子の魅力にすっかりその気になって、あわよくば、みたいな付き合いが始まります。
終盤では強い味方として第一志望に合格できるよう大原をバックアップしますが、大人としての考え方を大原に受け入れてもらうことができないという展開に…。
役どころとしてはもう少し派手な展開もあると良かったのに、というのが悔やまれるところです。
鶴田真由 えっ?出てた?
意外だったのが、鶴田真由が出演陣に入っていたことです。良く探さないと気付きません。
羽田美智子演じる麻子が率いる早稲田大学マスコミ研究会の子分みたいな女子大生役です。
ホントに端役で彼女を中心に見てみると貴重な映画と言えます。
でもやっぱり見比べると、羽田美智子よりも綺麗な顔立ちです。
馬券売りのシーンでヘルメットを被らせてるのがもったいないくらいです。
当時の就職活動の本音の描写が面白い
この映画はバブル景気まっさかりで『超売り手市場』で展開する就職活動が舞台です。『拘束』という言葉が当たり前な就職活動中の用語です。
ここ、試験に出ますから要チェックです。(笑)
拘束とは、内定が出た学生が他の会社の面接などの就職活動できないように内定を出した企業がセミナーや研修などの名目で旅行などに連れ出して学生を文字通り拘束することを指します。
できるだけ隔離度を高めるために意味もなく離島へ行ったり、エスカレートすると海外旅行、なんてのもあったとかなかったとか…。
とにかく学生にはタダで飲み食いさせて、機嫌をとりつつ、他社へ持っていかれないようにするために企業の人事部門は四苦八苦していたわけです。
もちろん学生側もそんなことは承知の上ですから、どうやって拘束されずに、少しでも良い条件の会社へのアプローチを確保するかに腐心したりします。
内定企業を複数確保して一番条件の良い会社を本命として残す中で、断りを入れた企業の人事担当者から水を掛けられたとか、罵声を浴びせられた、なんてのは日常茶飯事でした。
当時の企業は利益が出ていても仕事がさばききれず、『人手不足倒産』なんてのがある時代でした。
ですから企業戦士となる学生を確保することがとても重要なミッションでした。
そのためには企業はいかなる手段でもいとわない、ぐらいの勢いでした。
この時代は携帯もインターネットも無い
現在の就職活動はインターネットとメールが必須アイテムでしょうが、当時はインターネットなんてありません。携帯電話だって馬鹿でかいやつで学生が持つようなものではありませんでした。
携帯電話でインターネットに接続できる現代はいろんなことが瞬時に解決できますが、当時はなにもかも不便なところが映画のストーリー展開にも影響していると思います。
ある意味、今よりもストーリー展開のバリエーションが豊富なのかもしれませんね。
今なら「それ、携帯で調べたらわかるでしょ?」ってツッコミ入れられるところも多いかもしれませんが、当時はみんな大真面目で知らないこと、簡単に調べられないこと多かったですから…。
企業の学生へのアプローチも全然違います。
映画冒頭で山の様なリクルートの求人情報が一方的に送りつけられます。
私の自宅にも段ボールが沢山届いたのが懐かしく思い出されます。
遠慮ないフジテレビが君臨している感じがスゴイ
この映画のストーリーで舞台となる応募企業は『エフテレビ』ですが、言わずもがなでフジテレビのことを指してます。他の企業はどこでも入れるけど、マスコミだけは違う、なんて台詞を臆面もなく言わせてしまう映画を当のマスコミが制作しちゃうんですから…。
更に…
この映画ではエフテレビだけでなく実在する会社を想定した企業が応募企業として登場しますが、劇中で企業の就職難易度が表示されます。
- エフテレビ・就職難易度105.3
- S潮社・就職難易度82.4
- K談社・就職難易度81.7
- テレビA日・就職難易度97.4
- A日新聞・就職難易度100.3
- N放送協会・就職難易度88.5
さりげなく、いや、これ見よがしに自社の難易度がダントツな設定です。
当て馬扱いのT武デパートなんて、ゴミ扱いです。
ここまで自社と自社業界を特別扱いにした映画を平然と作り切ってしまうフジテレビの器の大きさに脱帽してしまいます。
現在は視聴率低迷であえぐフジテレビですが、ネットの無かったこの頃のフジテレビは向かうところ敵なしな感じでメディアの大通りを闊歩していました。
それでもなかなかいいセリフ、あったなぁ
主人公・大原の後輩、立川は夢破れて激戦の第一志望のマスコミへの就職を諦め、その他企業としてバブル期なら超売り手市場の食品会社から内定をもらい、拘束旅行で伊豆へバス旅行することになります。酔っぱらって立川のアパートに押しかけてきた大原を拘束旅行に無理やり連れて行き、旅行先の夜のグランド、かつての高校球児がキャッチボールを始めます。
そこで立川は自分の思いを吐露します。
「小学校の頃、良く言われたんですよ。やれば出来るんだから、って。」
「出来の悪い生徒にはそう言うって決めてたんだろうけど、あれで何だか魔法にかけられちまったんですよね。」
「何でも自分の思い通りになると信じた!」
「本気で勉強すればわからないことなんてない!」
「本気でやれば甲子園だって夢じゃない!」
「でもやっぱり夢だったんですよ、そんなの。」
「きっと、子供が見ている最後の夢です。」
「その夢から早く覚めた奴から順番に大人になっていくんだ。」
「なりたいもの、じゃなくて…」
「なれるもの!を探し始めたらもう大人なんです!」
感極まって嗚咽する立川に歩み寄り構えろと大原は促します。
「そんな簡単に諦めんな。9回裏ツーアウトからでも逆転できる。そう親父も言ったじゃないか。勝負は最後までわかんないぜ。打てばヒーロー。また夢が見られんぞ。」
「勝負だ!立川。」
バットを持って構える立川に向かって大原は渾身の一球を投じる。
立川の打った打球は夜空に吸い込まれていく。
大原自身が内定間近まで勝ち進んだエフテレビの就職活動。
それが、ある人間の仕組んだ仕返しであることに気付き最終面接を受けるかどうか悩んでいたことを吹っ切ることとなった。
最後に見せたダメダメ男の心意気。
そして、心意気を見せた結果…。
「立派な人間にはなれても、立派な大人にはなれそうにない。」
「ビール買ってきますよ。」
「忘れ物?」
「一番大切なもの。」
「それって載せるとこある?」
「立川君に呼ばれて。」
「頼み、あんだけどさ。」
「ここに敷く魔法のじゅうたん、鞠子が選んでくれないか?」
「頼み、断ったことある。」
大原を主人公にして鞠子が執筆した作品、『就職戦線異状アリ』のエピローグを読む葉子の姿で映画もエピローグを迎える。
なかなか素敵な台詞たちだったと思います。
そして素敵なエンディングテーマソング
ラストシーンにフェードインするまだ売れっ子になる前の槙原敬之の『どんなときも』映画に素敵な余韻を残してくれました。
主人公の大原も登場する日本の社会もみんな下衆な世界だったけど、立川がかすかに尊敬している大原の核心が物語の最後を締めくくり、何だか捨てたもんじゃない、って気持ちにさせられちゃう、そんな映画なんです。
私もバブル末期に就職しました。
私は理系でちょっとここに描かれている世界とは違う青田買いの就職戦線でしたが、社会背景はまさに完全にこの映画に描かれていたような浮かれた時代でした。
大量採用で同期が何百人もいて、社長が入社式で話す訓示を私は「別室」に映し出される大型プロジェクタで見ていました。
「きっとこんな時代に入社したことが決して幸福ではなかったと感じる時が来る」って同期の友人に話したことを思い出します。
そして、今まさに生き抜くのが当時ほどお気楽ではない時代と真正面から向き合わなければならないバブル入社組となっています。
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