【「決算書を読めるようになるための簿記検定受験」の落とし穴】 [会計・経理・税務]
「決算書を読めるようになるための簿記検定受験」の落とし穴

『簿記を学んで決算書を読めるようになる』とはよく言われること。このことについて少し掘り下げて考えたいと思います。
ビジネスマンの必須スキルとまで表現されることのある簿記についてお伝えします。
ビジネスマンの必須スキルとまで表現されることのある簿記についてお伝えします。
この記事の目次
簿記をやってみようかな?
居酒屋で「とりあえずビールッ!」と頼んでしまうように「なんか資格でも取ろうかなぁ?」と思って思い浮かぶのが「とりあえず簿記」。
特に『経営数値を読み解くことができるようになる』といったメリットに触れて簿記検定受験を検討している方々にお伝えしたいと思います。
データでみる 日商簿記3級の受験者数
では具体的にどのくらいの人が受験している資格なのでしょうか?
※上記のデータは商工会議所の公式サイト「日商簿記学習倶楽部」から転載
1年に3回行われる検定の過去5回のデータとなっています。
受験者数を見ると毎回10万人以上の方が申し込みしています。
但し申し込みをしても受験を辞退する方が多いようで実受験者数は多い時で9万人超です。
だいたい7万5千人から8万人前後で推移しているようです。
更に過去40回分のデータを見てみると実受験者数は少ない時でも7万人を超え、多い時には12万人近くとなっています。
年に3回と比較的試験開催頻度が高いにもかかわらずこの数字をキープする簿記検定とは間違いなく『人気資格』と言えるでしょうね。

ちなみに英語検定は最も多い英検3級で年間65万人といったレベルのようです。年換算しても30万人には届かない簿記検定(3級)は受験者数では英検には敵わないようですね。英検は全カテゴリを合計した志願者数(申込者数)は年間260万人超というレベルです。
漢字検定も調べてみました。3級の1回の受験者は17万人を超えています。志願者数(申込者数)は全ての級を合計すると年間200万人を超えています。
受験者数を見てみると英検や漢検ほどではないものの英語や漢字というその学問の対象のすそ野の広さと会計領域という汎用度で低いことを合わせて考えると簿記検定も人気の資格ということが言えると思います。
人気の日商簿記の受験者とは?
そんな人気の簿記検定の受験者はどの様な方たちでしょうか?私の周りでも受験者がいます。
私の妻は出産後に、私の妻の母も若い頃自営業の父を手伝うため取得しています。
最近、私の中学生の息子にも勧めてみるとその気になって6月に受験しました。
勉強不足な上に前日に「過去問が無いっ!」ってことで慌てて本屋に買いに走る始末。試験当日はトイレに行きたくなり、途中退室という大胆な行動に出て残念ながら合格できませんでしたが、次回はトイレ対策さえすれば受かるでしょう。(11月受験は申し込みを忘れていて期日を過ぎて受験できず)

ということで漢字検定ほどではないにしろ年齢・性別・職業を問わず受験できる間口の広さがあります。しかも加減乗除ができれば合格することも難しくはありません。
しかし何と言っても簿記検定の動機として多いのは経理マンなど経理や会計といった分野の仕事に就きたい人たちが受験するパターンでしょう。
経理マンの登竜門といったポジション、それが日商簿記3級のポジションでしょう。
私の場合は簿記3級を受験した後に税務・会計の世界に足を踏み入れたわけですが、簿記の知識は日商簿記でその基礎を学んできたので目指す職業のスキルを磨くための簿記検定という点では経理マン目指して簿記を始めた人と似た面ががります。
そんな中で社会人になってから『別に経理マンになるわけではないけど簿記を勉強してみたい』層が一定数いらっしゃると思います。
社会人なら『決算書くらいは読めなくては』といったビジネス上の『基礎スキル』として簿記を勉強するパターンです。

場合によっては会社から指示されたり、受験料を会社で負担してくれる、なんて会社もあるようです。
大変前置きが長くなりましたが、今回はこんな『別に経理マンになるわけではないけど簿記を勉強してみたい』方が簿記検定を受験する時にことについてお伝えしたいと思います。
『簿記』という技術
簿記とは『会社の取引を記録するための技術』
といったところでしょうか。
経理マンはまさに『会社の取引をルールに則って記録して報告する』仕事ですから必須アイテムと言えるでしょう。

では経理の仕事に就くわけではないビジネスマンにとってどの様なメリットがあるのでしょうか?
ビジネススキルとして『簿記』を学ぶメリット
簿記検定関連の商売をしているサイトで簿記を宣伝するのに使われる『ビジネスマンとしての必須のスキル』としての簿記。この観点で学ぶメリットとしてどんなものがあるか考えてみましょう。
履歴書に書ける資格をゲットできる
漢検だと気が引けますが日商簿記なら履歴書に書くのに躊躇しないでしょう。自分が好むと好まざるにかかわらず『転職』ということが身近になった現代のビジネス環境では履歴書に書ける資格をゲットできるのはそれなりにメリットでしょう。経理マンとして就職するとなると最低でも日商簿記2級は欲しいところですが、他の職種でしたら3級でも「ビジネスの基礎を学ぶ姿勢」くらいはアピールできるのではないかと思います。

ちょっと余談ですが、日商簿記には実は『4級』が存在するのは意外に知らない人もいるのではないでしょうか?

先ほどの3級と比較すると受験者数が桁違いに少ないですね。難易度は当然3級よりも高くなく初歩的な内容ですが合格率は3級よりも低くなっています。恐らく受験者の層の違いが合格率に反映されているのでしょう。
3級が『簿記の登竜門』的存在の地位を確立していて受験サポートも整っているため、あまり4級は重視されていないようです。書店に行けば日商簿記3級の受験対策関連書籍は豊富に揃っていますが4級となると極端に少ないので業界も力を入れていない分野となっているようです。
4級は基礎的な内容に絞った内容で学習時間も5、6時間程度で合格可能な資格です。
『とにかく簿記関連の資格を短期間で取得したい!』という方にはいいかもしれません。
会社の「お金の流れ」を理解できる
これも良く言われる簿記学習のメリットのひとつです。企業の数字に強くなる
決算書や経営数値を読み解く能力を磨くことができるということです。この辺が一般に紹介されている『簿記を勉強する意義』『簿記検定取得のメリット』ではないでしょうか?
私が思う簿記検定受験最大のメリット
これらのメリットの中で私が最大のメリットだと思うのは『人に言える資格を比較的簡単に取得できる』ことだと思います。先述の通り、履歴書に書いても恥ずかしくはないですし、勤務する会社内でも持ってない人よりも「余禄」が期待できます。
会社によっては資格取得の手当をもらえたり、「何かしらスキルを磨く努力をしているヤツ」として認識してもらえる可能性があります。

つまりは大小はあるにせよ簿記の資格を持っていることにより、
『人の評価が変わる可能性がある』というのが最大のメリット
だと思うのです。
次につながる日商簿記3級というポピュラーな資格
簿記に限ったことではないのですが何かのきっかけで新しい分野の勉強をしてみると新しい自分を発見することがあります。私は簿記とか会計なんて無縁な世界で生きていると思っていた営業マンでした。そんな世界は苦手分野だと勝手に思い込んでいましたが、かじってみると「自分にもできるかもしれない世界」って思いました。
詳しくお知りになりたい方は以下の過去記事をご参照下さい。
簿記は最初の入口でつまづくと中に入っていけない面もありますが、その『ちょっとだけそびえ立つ壁』を登ることが出来さえすればそんなに難しいものではありません。
場合によってはパズルを解くような感覚で問題を解くのが楽しく感じられたりします。
合格率も高く勉強時間を仕事の合間にやるには手頃な資格試験です。
そして、簿記2級、簿記1級、税理士、公認会計士、などステップアップしてその道を極める道も用意されている世界です。
漢字検定が漢字博士で終わるのとは違い「次に続いていく道」があるように思います。

『読解力』に簿記は必要?
それでは『経営数値や決算書を読み解く能力』を向上するのに簿記は役立つでしょうか?先述の通り、簿記は『記録する技術』です。経営数値や決算書を『作成する技術』と言えるでしょう。当然作成技術を学ぶわけですから『何を作るのか?』といったことも学びます。ですから学んで無駄なことはありません。
しかしながら日商簿記の出題範囲は『何を作るのか?』とか『出来上がったものを見る技術』については思った以上にあまり語られず、これらを勉強しようと思う受験者の期待にはあまり応えてはくれない気がします。
『やらないよりはやっておいた方が良い』という程度に留まっているように思います。
少なくとも簿記をかじっただけでは決算書を読みこなすようにはなれないように思います。

私は日商簿記を3級、2級、1級と取得し、税理士試験の簿記論も取得しましたので簿記を嫌というほど学びました。
経理の実務ではこれらの学習で得た知識が助かることになりましたが、読解力という点ではかけた時間の割には助けになっている気がしません。
税理士試験の『財務諸表論』という科目を取得して財務諸表の基礎から磨くことはできましたが、簿記はやっぱり『作成技術』を磨くためのものだと実感しています。
勉強しながらも『他者から評価を受けたい』というのが目的であれば簿記は手軽に受験できて合格率が高いので目的に合致していますが、純粋にスキルを上げたいのであれば優先順位を下げても良い分野かもしれません。もちろん経理マン等、その分野への職種変更を考えているのであれば話は別ですが…。
決算書を読み解く力を磨くなら
例えば『会社のお金の流れ』を磨いたり決算書を読むようになりたいのならそれらに関する良書を何冊か読む方が効率が良いように思います。そして自分の会社や世間に数多ある企業のうち興味のある会社の財務諸表を身に付けたスキルでアレコレ分析するなどしたら読み込む力が磨かれるのではないかと思います。
何なら少額で買える株式でも購入してみると良いかもしれません。自分のなけなしのお金がかかっていれば必死に財務諸表を読もうとするでしょう。そんな時に簿記を学習するのは効率が悪いと気が付くのではないかと思います。
そんなことをしているうちに『作る技術も知ってみたいな』と思えば、少し難易度の上がる簿記2級や1級にチャレンジしてみる、そんな感じでも簿記検定受験は遅くは無いように思います。

少なくとも簿記を知らないと読むことが出来ないなんてことはないと思います。
何となれば、私たち経理マンはそういう方々(簿記の専門家ではない人)に会社の財務状態や損益などの経営数値をわかり易くお知らせする任務を負っていてそれができる専門家だからこそお金を頂いているのです。
仲の良い経理部門の同僚がいれば教えてもらうのもいいかもしれませんね。
経理マンでも作るばかりで見るのが苦手な人もいるかもしれませんが…。




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