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【消費税あれこれ 『増税』~低所得者負担増対策2~】 [会計・経理・税務]

前回の記事【消費税あれこれ 『増税』~低所得者負担増対策1~】では消費税増税に対する低所得者負担増対策案とその詳細を一つ目の『給付つき税額控除』についてお伝えしました。

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各対策のメリット・デメリット

これらの方策について、個々の詳細、メリットや問題点を説明していきたいと思います。

(2)軽減税率のメリット・デメリット

消費税増税の低所得者対策における『軽減税率』とは食料品などの生活必需品の税率を軽くしたり無税にしたりすることです。

軽減税率適用品目の特定は難航する?

第一段階としてどの範囲まで軽減税率を適用するかが問題になります。

食料品を入れたとしたらテイクアウトはいいが店内で食べると対象外、たらこはいいけどキャビアは贅沢品だからだめ、ぶりを買うとき養殖物はいいが天然ものは贅沢だからだめ、といったことをひとつひとつ考えなくてはなりません。

更に新聞・書籍だとか水道料金だとか医薬品だとか、それぞれ考えなくてはなりません。

医薬品だって風邪薬はいいがドリンク剤はだめ書籍なら経済誌はいいが一般週刊誌はだめ、といった議論が必要になるかもしれません。

この軽減税率の対象物品の限定は非常に難しい問題をはらんでいます。

当然ですが税率が現行維持かそれ以下であれば、その物品は消費税増税が原因で消費が鈍ることはありませんが、対象物品に選ばれなければ消費が鈍ることが十分想定されます。

業界団体は当然、対象物品に選ばれるように必死になるはずです。

最初から『生活必需品』に選ばれる余地がない業界はそんな努力をしても仕方がありませんが、微妙な境界線上にある商品を販売している業界にとっては選ばれるか選ばれないかは死活問題です。

一番微妙なのは外食産業と新聞・書籍分野といったところでしょうか…。

きっと今そのような攻防が繰り広げられていると思います。

既にある業界のトップ企業が元財務官僚を社外取締役として受け入れたと指摘する人もいます。

この「消費税の軽減税率」の制度発足に伴う官僚の天下りに利用される恐れがあるという指摘です。

軽減税率の海外事情

さて海外ではどうでしょう。

諸外国ではこの軽減税率は制度として導入されています。

例えば食料品ではイギリス/カナダ/メキシコ/オーストラリア/アイルランドなどが無税です。

フランス(5.5)/ドイツ(7)/スウェーデン(12)は軽減税率です。( )内が適用税率です。

新聞・書籍ならイギリスは無税で、

フランス(2.1~5.5)/ドイツ(7)/スウェーデン(6)などは軽減税率です。


この様な議論を経て、この軽減税率の範囲と適用税率が決定できたら第二段階としてこの制度をどの様に運用していくかという問題があります。

軽減税率適用後の消費税の取り扱い実務で予想される混乱

例えば、買い手の違いは問題にしないのか?

「生活必需品」だからという理由で消費税を軽減しているという理由から考えると企業が購入した場合はその理由にはあたりません。

仮に新聞が軽減税率適用物品として認定されたとしても企業で購入される新聞は生活必需品ではありません。

では売る側がその都度、「これは、ご自宅用ですか?」って聞くわけはありません。

結果として現実的には品目が決まったらその分類に基づいて既定の消費税を上乗せして粛々と取引がされると思います。

簡単に言えば、軽減税率は『選ばれたもん勝ち』です。

軽減税率の実務処理には『インボイス方式』の導入が必要?

更に現在の日本の消費税計算は消費税込の総額に5/105を掛け算することによってされています。

そのため領収書には『消費税をいくら支払ったか』を証明する機能はありません。

領収書はあくまでも総額でいくら支払ったかを証明するに過ぎないわけです。

税率が1つでしたら問題ありませんが購入物品ごとに税率が違うとこれでは困ります。

諸外国で一般的なインボイス制度を利用することになると思います。

インボイスは購入時に『消費税をいくら支払ったか』を証明する書類です。

一般消費者にはどうでもいいかもしれませんが、企業にとっては重要な書類になります。

発行インボイスに基づいて企業の1年間の売り上げに対するお客さんから預かった消費税の金額を集計します。

また仕入れ側の消費税もインボイスに基づいて集計し、売り上げの消費税から仕入れの消費税を差し引いて納めるべき消費税額を確定させます。

恐らくこのインボイスなしで消費税額を確定することは現場を混乱させることでしょう。

現行のレジスターで発行可能なら良いですが、そうでないなら現場でどうするかをまた考えなければなりません。

また税込の総額から計算する考え方から実際に預かった/支払った消費税額を積み上げる方式への消費税計算の変更も経理処理の煩雑さを伴います。

流通経路が消費税の計算に大きく関わっていることを考慮する

また流通過程のどこからが軽減税率適用商品なのかも考えなければなりません。

魚の缶詰を例にすると…

スーパーで販売するときは缶詰の缶も含めた代金が軽減税率の対象となるでしょう。

このスーパーに納入している食品卸業者も売り上げはどうでしょうか?

消費者には売っていないので対象外という考え方もできますが、どっちにも売っているような業者も存在することからその品目に着目して対象商品としてとらえた方が判断は簡単かもしれません。

そう考えると…

この缶詰を製造しているメーカーが卸売業者へ納入するときも軽減税率が適用されますね。

ではこのメーカーが魚を仕入れた時と缶の材料となる金属を仕入れたときはどうでしょうか?

魚はたぶん軽減税率なんでしょう。

金属は適用対象外でしょうね。

養殖の魚を育てるためのエサはどっちですかね?

たぶん適用対象外ですかね?

どっから線引き?

企業の実務の現場では意外に面倒な問題です。


(おまけ)輸出品の消費税計算

さて余談ですが、輸出品の場合の消費税の計算がどうなるかを検証してみましょう。

例えば缶詰メーカーの缶詰の販売価格が1個100円(税抜)だった時、食品の軽減税率が0%だと卸売業者への売価は税込でも100円です。

魚の仕入が1個当たり30円、缶の金属が1個当たり10円だとします。

魚の消費税もゼロ円、金属の消費税は税率8%なら8円となります。

そうするとこのメーカーが缶詰1個販売したことによって納税する納税額は

0円-(0円+8円)=マイナス8円となります。

缶詰1個売りごとに消費税の還付が受けられます。

以前の輸出免税企業の記事で書いた通り、この還付は企業を儲けさせている様に見えていても実はこのメーカーは従来の方法と比較して損も得もしていません。

払い損になってしまう消費税を返してもらっているに過ぎないからです。

軽減税率適用商品を製造するメーカーにとっては金属という軽減税率適用除外品の仕入れに関しても、その使用用途が軽減税率対象商品の原価になるのでしたら税率が10%になっても50%になっても一切影響を受けません。



さて、こまごまお伝えしてきましたが、消費者にとっても企業にとっても軽減税率の導入があった場合は、どの範囲の商品までどのくらい軽減されるのかが重要になってくるということです。

そして生活必需品は低所得者でも高額所得者でも購入するわけですから、その分、国に入る税金が減少してしまう財源をどう手当てするかという問題が浮上します。

消費税増税に伴う低所得者対策と言いながら、高額所得者から得られる税金も安くなってしまうので、その分を手当てするため、また増税しなければならないとか言い始めたら、わざわざ間接税で財源不足を手当てする必要があるの?ってことにもなりそうです。

なかなか難しい問題です。

【消費税あれこれ 『増税』~低所得者負担増対策1~】 





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